【豆知識】ヤモリが濡れた壁にも張り付ける訳
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20130404002
ヤモリがスパイダーマンのように素早く壁を登れることは以前から知られている。しかし、雨の多い熱帯の生息地でよくみられるように、ヤモリが濡れた表面にどうやって張り付いているのかということについては、まだよく仕組みが解明されていない。
その答えが最新研究によって明らかになった。
ヤモリの接着性のある足指は、例えば光沢のある葉などのように水をはじいて部分的にしか濡れない表面を歩くことはできるが、ガラスのような一様に濡れやすい表面は歩けないのだという。
これは「ヤモリの生物学において従来あまり注目されてこなかった興味深い疑問」だと、研究を指揮したオハイオ州にあるアクロン大学の生物学者アリッサ・スターク(Alyssa Stark)氏は話す。
しかし、それがなぜ重要なのか。イモリの足が張り付く仕組みを解明することは、水中で使える接着剤開発のヒントになるかもしれないとスターク氏は言う。そんな接着剤があれば、例えば水中で絆創膏を張っても陸上と同じように固定させることができる。
◆表面により異なる接着力
ヤモリの接着力を調べるため、スターク氏ら研究チームはトッケイヤモリ(Gekko gecko)6匹にハーネスをつけ、それぞれ濡れやすさ、すなわち疎水性(水となじまない性質)の異なる4種類の表面上に置いた。
実験に用いられたのは、ガラス、アクリル樹脂のプレキシガラス、しばしばガラスの代用品となる透明プラスチック、およびテフロン(ポリテトラフルオロエチレン)をそれぞれ水で濡らした表面だ。スターク氏によると、プレキシガラスと透明プラスチックは、「ヤモリが自然環境で実際に歩いている植物の葉と表面化学的に近い」という。
実験では、これらの表面を歩くヤモリの足が滑るまで反対方向に力を加え、それによって足の接着力を測定した。ガラスの場合、ガラス表面と足指との間に水の膜ができ、ヤモリのガラスに張り付く能力が低下した。これに対し、プレキシガラスとプラスチックの上ではヤモリの足指がエアポケットを作って乾いた状態を保ち、接着力を維持した。
この結果は「陸生の甲虫類が水中で接着する仕組みと」似ており、甲虫類も「閉じ込めた空気の泡によって、乾いた状態で(疎水性の)表面に接着することが可能」だと研究論文は述べている。この研究成果の「当然考えられる応用例」の1つとして、濡れた表面に張り付く合成テープの開発が挙げられるとスターク氏は言う。ヤモリの足指は熱帯雨林の濡れた環境に適応して進化したのではないかとスターク氏は考えている。
例えば、ヤモリが木の上で突然の激しい雨に見舞われたとき、周囲の環境はしばらく乾かない可能性が高い。つまり、捕食者から逃れたり、食物を見つけたりするためには、濡れた葉につかまることができなくてはならない。
◆実験の苦労
スターク氏によると、トッケイヤモリはあまり逃げないため、実験によく使用される種なのだという。それでも、体長35センチに達する生物を扱うのは容易ではない。手でつかまれるのを嫌がり、非常に攻撃的になることもあるからだ。
「彼らは防衛手段の1つとして、相手に糞を飛ばしてくる」とスターク氏は笑う。それは「ものすごいスピードで、私など実験中はいつも命中弾をくらっていた」今回の研究は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に4月1日付で発表された。
Photograph by Robert Clark, National Geographic